症例11:ハードコンタクトレンズ装用による眼瞼下垂の術後に多焦点レンズ挿入した症例
患者様の状態・ご要望
使用レンズ:右眼:Lentis Mplus X 30 / 左眼:クラレオンパンオプティクス
手術眼:両眼
他院からのご紹介で当院を受診されました。数年前から瞼が下がっているのが気になるとのことで、眼を開いても、上まぶたが瞳孔に半分かかってしまう状態でした。もともとハードコンタクトレンズを使用されており、平均して1日約14時間装用されているとのこと。ハードコンタクトレンズによる眼瞼下垂と考えられました。
また、初診時の視力は右遠見0.06(1.0) 右近見0.06(0.7) 左遠見0.07(0.7) 左近見0.07(0.6)※【※()の前は裸眼視力、()内は矯正視力です。例)1.0(1.2)=裸眼視力が1.0、眼鏡等を使った最高視力が1.2。】両眼とも屈折度数が-10Dの強度近視、また、特に左眼は乱視が-2D以上でした。
まずは最もお困りである眼瞼下垂症について、当院で両眼の上眼瞼挙筋短縮術を行いました。挙筋短縮術とは、眼瞼下垂手術のうち、瞼(まぶた)を挙げる筋肉が衰えて伸びてしまい、眼が開きにくくなった場合に用いる方法です。局所麻酔をした後、筋肉を縫い縮めて瞼(まぶた)が開くようにします。手術後は二重瞼になり、視野が拡がります。
眼瞼下垂手術後の経過は良好。眼が開くようになり、楽に見えるようになったと伺いました。術後検診の際、ご本人様より、もともとハードコンタクトレンズの使用による眼瞼下垂だったため、今後はできればコンタクトレンズは使わず裸眼で過ごしたいとのご相談をいただきました。白内障の進行も認めため、白内障手術の方針としました。
視力データ
| 検査時期 | 遠見視力 | 近見視力 |
|---|---|---|
| 術前 | R)0.06(1.0×S-10.00D) L)0.07(0.7×S-9.25D C-2.00D Ax180°) |
R)0.06(0.7×S-7.50D) L)0.07(0.6×S-6.50D C-2.00D Ax180°) |
| 術後 | R)1.2(1.5×S-0.75D C-0.50D Ax110°) L)1.2(n.c.) |
R)1.2(n.c.) L)1.2(n.c.) |
手術方針と結果
白内障手術にあたって、ご本人様が多焦点レンズをご希望、特に近くを重視されたいというご要望でした。しばらくハードコンタクトを使わないでいただいた後に詳しく検査をしたところ、中等度の乱視がありました。不正乱視のある方は多焦点レンズが向かないことがありますが、CASIA2による検査で、不正乱視は認められなかったため、乱視用レンズで矯正可能と判断し、まず右眼にLentis Mplus X 30 を入れ、術後経過を確認してから左眼のレンズを決定するという方針としました。
Lentis MplusXは、ドイツのoculentis社が開発した多焦点眼内レンズです。プレート型のレンズで全長11mm、その中央に直径6mmの光学部分があります。この光学部分の上方が球面・非対称の構造をもつ遠用部分、下方が扇状の構造を持つ近用部分となっている、セクター型と呼ばれる多焦点眼内レンズです。遠用部と近用部に境目がないため光のロスが少なく、他の多焦点レンズに比べてコントラスト感度が低下しにくいといった特徴があります。また、他の多焦点レンズと比べてハローやグレアも生じにくくなっています。
右眼の手術後の経過は良好で、ご本人様も、遠くも近くもよく見えると仰っていました。そこで左眼にも右眼と同じLentis Mplus X 30を、と考えましたが、患者様のご都合で、短期で左眼の手術もご希望とのこと。左眼もLentis Mplus X 30を入れるなら、乱視が強いためメーカーにオーダーが必要となり、レンズの到着まで、発注から1か月ほどかかります。お急ぎとのことでしたため、左眼は急遽、選定療養対象の多焦点レンズ、クラレオンパンオプティクスを選択しました。
クラレオンパンオプティクスは、遠くはもちろん、近方から中間(40〜80cm)に連続してピントが合う3焦点眼内レンズです。瞳孔径3.0mmでも光エネルギー利用率は88%と高く、近くが見える多焦点レンズの中ではコントラスト感度が落ちにくく、鮮明な見え方が期待できるといわれています。
両眼の手術を終えて、視力は右遠見1.2(1.5) 右近見1.2(1.2) 左遠見1.2(1.2) 左近見1.2(1.2)。左右で異なるレンズ(右眼はLentis Mplus X 30、左眼はクラレオンパンオプティクス)を挿入している、ミックス&マッチという状態ですが、ご本人様に見え方をお尋ねしましたところ、両眼で見ている際に左右の違和感を覚えることはない、片眼ずつ見比べても違いはほとんどないとのことでした。近くの見え方についても、右眼のLentis Mplus X 30と左眼のクラレオンパンオプティクスで、ほぼ同じとのことです。私の予想としては、近くの見え方は右眼ほうが良いだろうと考えていたので、この結果は意外でした。というのも、Lentis Mplus X 30の近見焦点距離は約30cm、クラレオンパンオプティクスは約40cmのため、理論上はLentis Mplus X 30のほうが手元は見えるはずです。しかし、この患者さんは左右で見比べても差を感じないとのことで、新たな知見を得られました。