糖尿病網膜症
糖尿病網膜症とは
糖尿病網膜症は、網膜(カメラのフィルムにあたる部分)に毛細血管瘤、出血、白斑、浮腫が生じ、失明に至る可能性のある病気です。2005年の視覚障害の原因調査(表1)では、糖尿病網膜症は視覚障害者全体の約5分の1(視覚障害の原因2位)を占めており、その新規視覚障害者の発生は年間約3,000人に及ぶものと推計されました。
糖尿病網膜症は、①単純網膜症(図1)→②増殖前網膜症(図2)→③増殖網膜症(図3)の順で進行し、病気の長期化とともに増殖網膜症の割合が増加します。増殖網膜症(図3)は、単純網膜症でも生じる糖尿病黄斑浮腫とともに視力低下を引き起こす原因となりますが、放置した場合には完全失明に至るという点で糖尿病黄斑浮腫と比較して病状はさらに深刻です。また糖尿病網膜症ではある程度病態が進行しても視力障害をきたさないこともあり、自覚症状と病状は必ずしも一致しません。このような自覚症状の欠如が早期発見を困難にしたり、患者さんが治療を中断してしまう一因ともなっています。
糖尿病網膜症の治療
レーザー光凝固術
眼底に向けて瞳孔からレーザー光を当て、網膜を凝固する治療です。進行した網膜症では、網膜血管の閉塞によって網膜代謝の需要が供給を上回ります。レーザー光凝固は網膜の一部を破壊することで、網膜代謝の需要を減らし、その需要と供給のバランスを保たせる効果があります。この治療で視力が回復するわけではありませんが、網膜症の進行を阻止し、失明を防ぐことができます。
手術スケジュール
- レーザー光凝固は日帰りで可能です。
- 片眼10分くらいで治療は終わります。眼帯は必要ありません。
- レーザー光凝固後は基本的には平常の生活で構いません。数回に分けて治療を行う場合もあります。万が一、異常を感じた場合は決められた受診日以外でも早めに受診してください。
手術費用
- 1割:片眼12,000~19,000円程度
- 2割:片眼23,000~27,000円程度
- 3割:片眼34,000~55,000円程度
高額療養費について
ひと月の医療費が一定の額を超えた場合、高額療養制度のご利用により、超過分が戻ってきます。詳細については下記へお問い合わせの上、適宜お手続きください。
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- 国民健康保険の方
- 各市町村の国民健康課
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- 政府管掌健康保険の方
- 全国健康保険協会
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自己負担額など詳細は、厚生労働省の高額療養費制度ページよりご確認ください。
- 厚生労働省の高額療養費制度はこちら
生命保険について
生命保険にご加入の方で、契約内容によっては給付金を受け取れる場合があります。まずはご自身のご加入している生命保険会社にご確認ください。
※診断書を作成する際は、一通につき5,500円(税込)がかかります。
硝子体手術
硝子体手術は、糖尿病による硝子体出血(眼の中の出血)や網膜剥離などを合併した増殖糖尿病網膜症(重症な糖尿病網膜症)や糖尿病黄斑浮腫に対して行われる治療法です。出血の除去、網膜剥離の消失、網膜症の沈静化、黄斑浮腫の改善などにより視機能の回復が期待できます。また、硝子体出血の一因となる新生血管の発育防止にも効果を発揮します。
増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術をお考えの患者さんへ
糖尿病網膜症は、ある程度病態が進行しても視力障害をきたさないことがあり、自覚症状と病状は必ずしも一致しません。このような自覚症状の欠如が、病気を重症化させてしまう一因となり、1991年時点では年間約3,000人の方がこの病気で失明に至っています。増殖糖尿病網膜症は、糖尿病網膜症の最も重症化した状態です。その増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術は、視機能の回復が期待できる場合もありますが、まずは病勢を止める、つまり失明を防ぐことが目標になることがしばしばです。術後の視機能は、術前の網膜症の重症度に大きく依存し、術後に網膜剥離などが治っても視機能の回復が十分に得られない場合も少なくありません。また一方で、硝子体手術が契機となって増殖性変化が強まり視機能が術前よりも低下したり、術前の活動性が高く、すでに重症化しているため複数回の手術が必要な方もいます。
しかし近年、手術機器や技術の進歩とともに糖尿病網膜症の病態の理解が深まり、手術による合併症や危険性が軽減したことも相まって、早めに硝子体手術を行うことが可能になりました。それによって、完全失明に至る糖尿病患者さんは確実に減少しています。また硝子体手術に際し、白内障手術も同時に行うことができるため、白内障進行例においては更なる視力改善が期待できます。
一方、糖尿病網膜症の治療は硝子体手術で完了するわけではありません。将来の視力維持のためには、術後のレーザー光凝固や眼注射などが必要になることもあります。改めて言うまでもありませんが、将来的に良好な視機能を保つためには、術後も糖尿病の内科的コントロールが長期間必要であること、内科と眼科両科の定期受診が必要であることも十分ご留意頂きたいと思います。
糖尿病黄斑浮腫
糖尿病黄斑浮腫とは
糖尿病黄斑浮腫は、糖尿病が原因で網膜の最も重要な部分である黄斑に水分(血漿成分)が貯留し、「視力が下がる」、「物が歪んで見える」などの見え方が悪くなる病気です。単純網膜症の段階でも5%前後に合併し、病期の進行とともにその発症率は高くなります。また、網膜にレーザー光凝固を行った後の合併症として生じる場合もあります。黄斑浮腫を発見すること、あるいは浮腫の程度を把握することは、治療方針の決定や予後を推測する上でとても重要です。望月眼科では、光干渉断層計(optical coherence tomography: OCT)を用いて、黄斑浮腫の程度あるいは糖尿病黄斑浮腫に対する手術や治療の効果を判定しております。
A.糖尿病黄斑浮腫の眼底造影写真:網膜の中心部(黄斑)にある花びら状の白い部分は浮腫(むくみ)を示しています。矯正視力は0.3まで低下していました。
B. 光干渉断層計検査(眼のMRI):中心部(黄斑:Aの黒線部分)をスキャンした網膜の断面図。
網膜のなかに多数の水のふくろ(嚢胞)が形成されているのが観察されます。
糖尿病黄斑浮腫の治療
薬物療法
ステロイド薬や抗VEGF抗体注射(アイリーア、ルセンティス)は糖尿病黄斑浮腫に対する治療効果は高いのですが、多くの場合、効果は一過性であり、しばしば再発します。また、投与量や投与方法によっても効果は異なります。例えば硝子体内注射では比較的即効性があるものの、効果はやや短めです。一方、テノン嚢下注射では、硝子体内投与に比べ即効性と効果でやや劣りますが、その持続期間は3か月から6か月程度とやや長めです。 ステロイド薬による主な副作用として、眼圧上昇(緑内障)、白内障、眼内炎が挙げられます。
薬物注射の投与方法
硝子体内注射
薬物注射の投与方法 ・ 硝子体内注射
眼の中に薬物を直接注入する方法です。
- 注射スケジュール
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- 注射は日帰りでおこなっております。
- 注射3日前の朝から注射後3日間までの間、抗菌剤を点眼して頂きます。1回につき1~2滴を点眼してください。
- 注射自体は片眼数秒で終わります。注射後の眼帯は必要ありません。
- 注射翌日、2週間後、その後は適宜診察となります。
テノン嚢下注射
薬物注射の投与方法 ・ テノン嚢下注射
眼の周りに薬物を注入する方法です。
- 注射スケジュール
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- 注射は日帰りでおこなっております。
- 注射当日の夜から注射後3日間、抗菌剤を点眼して頂きます。1回につき1~2滴を点眼してください。
- 注射自体は片眼数秒くらいで終わります。注射後の眼帯は必要ありません。
- 注射翌日、2週間後、その後は適宜診察となります。
- 手術費用
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- 1割:1回1,100円程度
- 2割:1回2,200円程度
- 3割:1回3,300円程度
硝子体手術
薬物療法は初期の黄斑浮腫に対する効果は高いものの、網膜剥離や硝子体牽引を伴う症例、あるいは浮腫の程度が強く重症化した症例に対しては効果が低く、その適応は限定されます。現在、糖尿病黄斑浮腫に対する治療の主流は適応範囲が広い硝子体手術であり、その有効性は広く認知されています。
糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術をお考えの患者さんへ
糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術は、合併症の頻度が多かったために、視力がある程度低下してから行われていました。そのため手術症例のなかには、黄斑浮腫が長期間持続したことによって黄斑機能が元に戻らないレベルまで進行したものが多く含まれていたのです。実際、私達が行った臨床研究では、硝子体手術を行った糖尿病黄斑浮腫患者57眼の術前平均視力は0.14であり、術前視力0.1以下の症例も多く含まれていました。術後18か月の視力は0.21と統計学的には改善していましたが、視力が下がって手術を行っても満足できる結果にはならないことがわかったのです。一方で、近年手術機器や技術の進歩に伴い手術の安全性が向上したことによって、例えば自動車の運転が可能な0.7以上の視力維持を目標とし、以前よりも早めに手術に踏み切られるようになりました。実際に術後視力が1.0まで改善し、維持できる患者さんも少なくありませんが、白内障手術のように術後すぐに見えるようになるわけではありません。将来的に視力を維持させるための手術とお考えください。しかし、約40%の患者さんは、1年後に2段階程度視力が改善しています。また、硝子体手術単独では十分な効果が得られない場合は、術後にレーザー光凝固をはじめ、ステロイド薬や抗VEGF抗体などの薬剤を組み合わせた複合的な治療を行っていきます。
レーザー光凝固
糖尿病黄斑浮腫は主に網膜の血管から水分(血漿成分)がしみ出てくる病気で、限局性浮腫とびまん性浮腫に分けられます。限局性浮腫の治療はレーザー光凝固が第一選択で、その有効性は確立されています。一方、びまん性浮腫の治療は画一的ではなく、薬物療法・格子状レーザー光凝固術・硝子体手術などを各施設あるいは各医師の裁量によって適宜選択あるいは併用されているのが現状です。
手術スケジュール
- レーザー光凝固は日帰りで可能です。
- 片眼10分くらいで治療は終わります。眼帯は必要ありません。
- レーザー光凝固後は基本的には平常の生活で構いません。数回に分けて治療を行う場合もあります。
手術費用
- 1割:片眼19,000円程度
- 2割:片眼27,000円程度
- 3割:片眼55,000円程度
高額療養費について
ひと月の医療費が一定の額を超えた場合、高額療養制度のご利用により、超過分が戻ってきます。詳細については下記へお問い合わせの上、適宜お手続きください。
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- 国民健康保険の方
- 各市町村の国民健康課
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- 政府管掌健康保険の方
- 全国健康保険協会
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自己負担額など詳細は、厚生労働省の高額療養費制度ページよりご確認ください。
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生命保険について
生命保険にご加入の方で、契約内容によっては給付金を受け取れる場合があります。まずはご自身のご加入している生命保険会社にご確認ください。
※診断書を作成する際は、一通につき5,500円(税込)がかかります。
網膜症以外の眼合併症
糖尿病に伴う眼合併症は、視力予後を大きく左右する網膜症が最も注目されますが、網膜以外にも眼の様々な部分で起こりえます。網膜症以外の眼合併症は、主なものとして眼筋麻痺、角膜症、虹彩炎、白内障、視神経症、血管新生緑内障などが挙げられ(図1)、それぞれの合併症は網膜症に比較して多いものではありませんが、患者さんにとっては決して軽視できるものではありません。
糖尿病網膜症についてのよくある質問
検診で糖尿病を指摘されました。症状は特にありませんが、眼科受診は必要でしょうか。
糖尿病の場合、症状が出てから眼科を受診しても治療時期を逃すことになりかねません。眼の症状が無くても糖尿病と診断された場合、早めに眼科を受診しましょう。仮に糖尿病網膜症を指摘されても、適切な時期に治療を行えば、進行を止めることができ、より良い視機能を維持できます。早期発見・早期治療はどんな病気に対しても大切です。
レーザー治療は痛いですか。
レーザーが当たる部分にもよりますが、時々痛むことがあります。望月眼科では点眼麻酔を使用し、できるだけ痛くないように超短時間照射方法でレーザー治療を行っております。
糖尿病があります。定期検査はどれくらいの頻度で眼科を受診したらいいのでしょうか。
糖尿病の血糖コントロール状態と網膜症の進行程度によりますが、例えば網膜症が出現していなくて血糖コントロールが良好であれば6~12か月に1回の受診をすすめています。
糖尿病になったら失明してしまうのですか?
糖尿病が発症しても適切に血糖コントロールを行い、定期的に眼科検診を受けることによって網膜症はコントロールが出来る場合がほとんどです。 血圧、高脂血症、その他悪条件が揃っている場合は、治療しているにもかかわらず網膜症が進行する場合もあります
定期検査はどのくらいの間隔で受ける必要がありますか?
年齢、血糖コントロールの状態や網膜症の状態によって異なります。状態が落ち着いていれば1年に1回程度でよいでしょうし、状態が良くない場合、治療直後などの場合は月に1度くらい診た方がよい場合もあります。詳しくは医師にご相談ください。
レーザー治療を勧められましたが可能であればしたくありません。
レーザー治療が必要な場合は、網膜症が進行しており、そのまま経過観察することによってものを見る中心(黄斑部)に水がたまり視力低下を来すことが予想される場合や悪い血管(新生血管)が生えてきて硝子体出血や血管新生緑内障を起こすことが予想される場合です。
現在は自覚症状がない場合でも、レーザー治療が必要な場合はよくあります。もう一度医師とご相談ください。
ものを見る中心(黄斑部)がむくんでいると言われましたが手術が必要ですか?黄斑浮腫といわれ手術をしても歪みが残ると言われましたが。
黄斑浮腫の治療には、ステロイドを目の奥に注射する方法や、レーザー治療をする方法があります。それらの治療が効かず、むくみが続くことによって黄斑部網膜が傷んでいく可能性があります。
しばらく経過を見てむくみがひどくなる、視力が落ちていく場合に、手術を検討します。硝子体手術によって黄斑浮腫が良くなっても、歪みが残ったり、悪くなったりすることがあります。
硝子体手術は術後にうつぶせになる必要があると聞きましたが。
ものを見る中心(黄斑部)の膜は剥いだり、むくみを取ったりする場合はうつぶせが必要なことはほとんどありません。